生前対策コンサルティング事例(第2回)|独身高齢者の安心設計

2025年09月05日

高齢化が進むなか、「独身で子どももいない場合、万一のときに誰が自分のことを見てくれるのか」「財産はどうなってしまうのか」といった不安を抱える方は少なくありません。相続人がいない、あるいは兄弟姉妹や甥姪が遠方に住んでいるなど、頼れる身内が限られるケースでは、生前の準備が欠かせません。今回は、独身で高齢の方をペルソナに設定し、司法書士として行える具体的な生前対策コンサルティングの流れをご紹介します。

目次

1.相談者のプロフィールと悩み

2.課題の整理:独身高齢者特有のリスク

3.生前対策の選択肢

 (1)遺言書の作成

 (2)任意後見契約

 (3)死後事務委任契約

 (4)信託を利用した財産管理

4.専門家によるコンサルティングの進め方

5.ケーススタディ:最適解の提案

6.まとめ

7.よくある質問(FAQ)


1. 相談者のプロフィールと悩み

 今回のペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )は高松市在住の70代男性Aさん。結婚歴はなく、子どももいません。兄弟はいますが、全員が他県に在住しており、日常的な交流はほとんどありません。Aさんは退職後も一人暮らしを続けており、今後の生活や万一のときに備えたいと考え、相談に訪れました。

 Aさんの悩みは大きく分けて3つです。

  1. 認知症になったとき、自分の生活や財産を誰が管理してくれるのか。
  2. 死後の葬儀や納骨をどのように手配すればよいか。
  3. 残った財産を、自分の希望通りに処分できるのか。

2. 課題の整理:独身高齢者特有のリスク

 独身高齢者の場合、次のようなリスクが想定されます。

  • 認知症などで判断能力が低下した場合、預金の管理や医療・介護の契約ができなくなる。
  • 身寄りが遠方にしかいないため、急病時や死後の事務を頼む人がいない。
  • 相続人がいない場合、財産は最終的に国庫に帰属する。

 これらの課題を放置すると、望まない形で財産が処分されたり、生活に支障をきたす恐れがあります。そこで、生前の段階で法的に有効な対策を講じる必要があります。

3. 生前対策の選択肢

(1) 遺言書の作成

 相続人がいない場合でも、遺言書を作成しておけば、自分の財産を信頼できる友人や団体へ遺贈することが可能です。公益法人や地域団体に寄付を希望する方も多く見られます。自筆証書遺言・公正証書遺言のいずれも選択できますが、確実性を重視するなら公正証書遺言が推奨されます。

(2) 任意後見契約

 将来、判断能力が低下した場合に備え、信頼できる人を後見人として事前に指定する制度です。財産管理や医療・介護の契約をスムーズに行うことができます。特に独身の方にとって、任意後見は安心の柱となります。

(3) 死後事務委任契約

 亡くなった後の葬儀や納骨、家財道具の処分、行政手続きなどを委任する契約です。身寄りが少ない方にとっては不可欠な制度であり、安心して人生の最期を迎えるための重要な準備です。

(4) 信託を利用した財産管理

 財産の一部を信託として託し、生活費や医療費に充てる方法も考えられます。信託を使えば、信頼できる人に柔軟な財産管理を依頼でき、安心感が増します。

4. 専門家によるコンサルティングの進め方

 司法書士・行政書士としては、まず相談者の現状を丁寧にヒアリングします。Aさんの場合、次のような手順で進めました。

  1. 財産状況の確認(不動産、預金、保険など)
  2. 希望の優先順位整理(生活、死後事務、財産の行先)
  3. 各制度のメリット・デメリットの説明
  4. 実際の契約書類や遺言案の提案

 このように「個別事情に合わせたコンサルティング」を行うことで、制度の選択がより明確になります。

5. ケーススタディ:最適解の提案

 Aさんには次のような組み合わせを提案しました。

  1. 公正証書遺言で、財産の一部を地域の福祉団体に寄付。
  2. 任意後見契約で、信頼できる知人を後見人に指定。
  3. 死後事務委任契約で、葬儀や納骨を司法書士事務所が代行。

 この3本柱により、生前・死後の両方で安心を確保できる体制が整いました。Aさんも「自分の意思が形になることで不安が軽減された」と満足されました。

6. まとめ

 独身高齢者にとって、生前対策は「安心して老後を過ごすための必須条件」といえます。遺言、任意後見、死後事務委任の3つを組み合わせることで、生活の安心・死後の安心・財産の行先の安心がすべて確保できます。専門家と一緒に考えることで、希望に沿ったオーダーメイドの生前対策が可能になります。

7. よくある質問(FAQ)

Q: 相続人がいないと財産はどうなりますか?
 A: 相続人がいない場合、最終的には国庫に帰属します。ただし遺言を作成すれば、希望する団体や個人に財産を残せます。

Q: 任意後見契約と法定後見はどう違いますか?
 A: 任意後見は判断能力があるうちに自分で後見人を指定できる制度、法定後見はすでに判断能力が低下した場合に家庭裁判所が後見人を選任する制度です。

Q: 死後事務委任契約で依頼できる内容には制限がありますか?
 A: 葬儀や納骨、役所への届け出、公共料金の精算など幅広く委任できますが、相続手続きは含まれません。

(無料相談会のご案内)

生前対策は一人で悩んでいても解決できるものではありません。当事務所では、相続・後見・遺言に関するご相談を随時受け付けております。まずはお気軽にご相談ください。

アイリス国際司法書士・行政書士事務所

アイリスあんしん終活相談

相続や生前贈与において「農地」が絡むと、一般の不動産とは異なる独特の課題が生じます。農地法の許可・届出が必要になるほか、相続登記義務化の流れも加わり、適切な準備をしないと相続人に大きな負担を残してしまうことがあります。今回は「農地を所有する方」をペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )に設定し、司法書士としてのコンサルティング事例をストーリー仕立てでご紹介します。

高齢化が進むなか、「独身で子どももいない場合、万一のときに誰が自分のことを見てくれるのか」「財産はどうなってしまうのか」といった不安を抱える方は少なくありません。相続人がいない、あるいは兄弟姉妹や甥姪が遠方に住んでいるなど、頼れる身内が限られるケースでは、生前の準備が欠かせません。今回は、独身で高齢の方をペルソナに設定し、司法書士として行える具体的な生前対策コンサルティングの流れをご紹介します。

生前対策は「自分にはまだ早い」「特別な資産家だけの話」と思われがちです。しかし、実際には家庭の事情によって必要性は大きく変わります。本シリーズでは、司法書士・行政書士がペルソナ(サービスや商品を利用する典型的なユーザー像を、架空の人物として具体的に設定したものです。 )を設定し、それぞれの状況に合った生前対策を解説します。第1回は「子どもがいない夫婦」。一見シンプルに見える家庭事情ですが、実は相続の場面では大きなトラブルにつながる可能性があります。

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